scene#13 涙のあたたかさ
彼女とボクの間に出来た長い沈黙を解いてくれたのは、この店の主人だった。
「よろしかったら、おかわりをどうぞ。」
と、ニコリと優しい笑顔をみせ、ホットココアの入ったカップを彼女の前に差し出す。そして、ボクらの視線を促すように、窓の外へ向けて首を小さく振った。
「また雪が本降りになってきましたらね。これで体を暖めてください。」
少し戸惑う彼女に
「さ、遠慮なく熱いうちに。サービスですよ。」
と、また優しく微笑む。
彼女は頷き上着の袖を手の甲まで伸ばして涙を拭った。そして差し出されたココアのカップを両手で包み込みカップを持ち上げて口に運んだ。一口飲むとカップをソーサにゆっくりと戻し、顔をあげると
「・・・ありがとう。」
と、一生懸命の笑顔でこたえた。
それを見て店主は、またニコリと笑顔を見せ、カウンターの奥へと立ち去った。
「ねえ、知っている?」
そう問いかけると彼女は両手でボクの右手を掴んで、自分の頬につけた。
「涙ってね。思った以上にあったかいんだよ。」
と、彼女はボクに微笑んだ。 そして彼女の瞳から溢れた涙は、頬をつたってボクの親指に到達した。
ほんとだ・・・。
涙ってこんなにあたたかいものなんだって、ボクはこの時、初めて知った。