scene#03 いつもの景色
彼女は黙ってボクの手を取り駅へと向かう。
近道のために横切る公園には昨日降った雪が残っている。彼女は遊歩道にさしかかるとボクの左側に並んで歩き始めた。彼女は必ずボクの左側を歩く。ベンチに座る時も左側。ベッドでも左側。その都度、どうしていつも左側なの?と、聞くと
「だって、私の横顔、あなたは右側が好きなんでしょ?」
ボクは今までそんなこと一言も言ったことないのに、必ず、そう答える。だから、左側を見るといつも彼女がいる。
彼女の横顔。彼女のやさしい笑顔。見慣れた景色。
「冬は色が無くなるから嫌い。でもねー・・・」
と、周りを見渡した後、彼女はボクから離れて、雪の残っている空間へ走り出し
「雪はキラキラしているから好き!」
と、雪を手ですくって軽く丸めてボクへ投げつけて、はしゃぐ。
右足と右手を一緒に前に出して投げる、変な格好の投げ方。うまく投げれなくて足元に届かない雪玉。地団駄をふむ彼女。それを見てボクは思わず笑う。
そして、彼女も笑う。
「ねえ、雪だるま作ろっ。」
と、言って、また彼女はクシャっとした笑顔を見せる。
両手で雪をかき集める彼女にボクは近寄り、後ろから抱きしめ右頬にキスをする。
「ほら、それだよ。」
ボクの左側、
やさしい笑顔、
見慣れた景色。