scene#04 流れる
駅に着くと、ボクらは待合室にある自動販売機に立ち寄り暖かい飲み物を買った。
「これこれ、このミルクココアが美味しいんだよ。」
彼女はそれをボクのコートのポケットに入れて、さらにボクの左手を握って入れ込む。ほら暖かいでしょ? と、言うけれど、これじゃポケットが膨れて伸びちゃうよと、苦笑いをすると、
「そう? 私の手、小さいから大丈夫だよ。」
と、ポケットの裾を引っ張って改札口へ向かった。待つ間もなく電車がホームに滑り込む。彼女は「内緒だ」と、まだ行き先を教えてくれない。ほんと、どこへ行くつもりなんだろう。
車中での彼女は、まるで遠足気分。流れては消えていく窓の景色に見とれている。やはり、ここでもあの幼い子供のような笑顔をボクに見せる。そして、しばらくすると彼女はボクの手を取り問いかける。
「あなたと一緒にいた時間って、
この窓から見える景色みたいに流れて
・・・いつか消えて無くなるのかな。」
乗客の話し声と、電車の音で聞き取れなかったボクは、
「ん? 何? もう一度。」
と、聞き直した。けれど、彼女はクシャっとした笑顔をボクに見せて、何も言わずにまた窓の景色に目をやった。諦めてボクはうつむき目線を落とした。
そのとき一瞬だけ見せた彼女の寂しげな目をボクは見逃してしまった。