scene#11 冷凍保存
「からだ、冷えちゃったね。」
気づくと、雲の隙間から見えた青空も束の間、また厚い雪雲で隠れて、はらはらと雪がちらついている。ふたりとも「声の記録」に夢中になって、時間の経つのを忘れていた。
「そうだね。また雪も降ってきたし、あそこで暖かいものでも飲もうか。」
寒そうに肩をすくめている彼女の手をとり、ボクらは駅前にある喫茶店へと向かって歩いた。彼女は透かさず、ボクのコートの左ポケットに手を入れて、頬を左胸にこすりつけてきた。
「ねえ、このまま外にいたら私たち凍っちゃうかな?」
また、いつもの例え話が始まった。彼女はボクの返事を待つことなく話を続ける。
「この寒さで、あなたの気持ちを凍らせることができたらいいのにね。」
「どうして?」
「私が寂しくなったら。それをね、冷凍庫から取り出して、一粒だけ口に含んで少しずつ溶かして食べるの。」
「・・・」
「慌てずにね、少しずつ、少しずつ・・・口の中で溶けるのをじっ...と待つの。焦って噛んじゃダメ。そしたら、せっかくの一粒がすぐに終わっちゃうでしょ?」
彼女の言うこと全てを理解することはできない。でも、なんとなく、そう、なんとなくだけれど、彼女の思うところは分かるような気がした。
「さ、熱いココアでも飲んで暖まろう。」
小さな喫茶店の小さなドアを開けるとカラン、コロン。と、吊るしてあるベルが鳴って、ボクらを迎えてくれた。