wonder PHOTO POJECT

 

wonder「ボクの左側」

it was "dramatic every day".
 
  

scene#02 ボクらの出会い

ボクらの出会いは、ちょっと寄り道と思って入った小さなカフェでのこと。
窓側の席に彼女はいた。
 
彼女は毎週末、いつもの席で、いつもの本を手もとに置いて、でも、それを読むこともなく、空色の便箋に黄色いペンで手紙を書いていた。そして時折、窓の外をぼんやりと眺める。ボクは、そんな彼女の横顔に惹かれて、毎週末、向かいの席を独占していた。そんなボクも、彼女の姿に見とれていて、手もとの本は手つかずのままでいた。そんな繰り返しの週末から抜け出したのは、梅雨明け間近の七月下旬のことだ。
 
駅の改札を出たボクを待ち受けていたのは、朝から激しく降る雨で、それは地面に落ちた雨粒がしぶきをあげてジーンズの裾を濡らすほどだった。その日は珍しくボクの方が先に店に到着していてジーンズの裾が乾き切った頃に彼女は店に到着した。いつもの席に座った彼女は濡れた靴の汚れをしばらく気にしていた。
 
お気に入りの靴なのかな・・・と彼女の横顔を見つめていると、突然その視線に気がついたかのように彼女はボクの席の方へ振り向き、ボーっとしていたボクの顔を見てクスッと笑って、肩のバッグを席の横に置き、いつもの空色の便箋と黄色のペンを取り出して
 
「ねえ、ほら、これって、なんだか向日葵みたいじゃない?」
 
と、言って、彼女はボクの目の前に駆け寄り、真新しい青い便箋に黄色のペンを当てて見せてきた。急な彼女の接近にボクは圧倒されて何も言えず、ただ彼女が向日葵と比喩して持ってきた便箋とペンに目を向けることしかできなかった。
 
「ね? 青い空に向かって咲いている向日葵みたいでしょ。」
 
クシャっと、大きな瞳が細く無くなるくらいの笑顔。
 
「これ、今、気づいたんだよ。で、誰かに言いたいなーって。・・・ちょっと、ねえ!聞いてる?」
 
相席に座り込み、ボクのジャケットを掴んで引っ張りながら話を続ける彼女。ボクは何も言えずにただうなずくだけだった。
圧倒されてポカンと彼女を見つめるボクを見て、ハッとした自分の口に手を当てて
 
「あ、急だったよね・・・ごめんね。でも、初めましてだけど、初めましてじゃないでしょ?」
 
と、また彼女はクシャっと笑った。
そして、それにつられてボクも笑っていた。

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